東京高等裁判所 昭和29年(う)630号 判決
被告人 倉持金吉
〔抄 録〕
論旨第一点について。
原判決が罪となるべき事実として、「被告人は吉沢二郎が法定の除外事由なくして覚せい剤注射液を購入する情を知りながら、同人からその購入斡旋方を頼まれて昭和二十八年十月末頃から同年十一月十日頃までの間前後四回位にわたり浦和市前地番地不詳鈴木某方において、同人より通称ヒロポンと称する覚せい剤注射液二立方糎入りアンプル合計九十本位を右吉沢のため買受け以て同人の覚せい剤譲り受け行為を幇助したものである」との事実を認定判示し、その証拠として、一、被告人の当公廷における供述、二、証人吉沢二郎の当公廷における供述を挙示していることは所論のとおりである。而して、所論は本件二立方糎入りアンブル注射液が覚せい剤取締法所定の覚せい剤に該当するか否かは、専門家の鑑定を要する事項であつて、証人の証言によつて確定することのできないものであるのに、原判決は、右の鑑定によることなく、前示のような供述のみによつて前掲罪となるべき事実を認定しているのであるから、結局証拠に基ずかずして事実を認定したことに帰し違法である旨主張するにより、案ずるに、なるほど、ある譲り受け行為の目的物たる物件が果して覚せい剤取締法第二条所定の覚せい剤に該当するかどうかの点は、厳格にいえば、専門家の鑑定を要する事項であることは所論のとおりであるが、しかし、右物件が同法所定の覚せい劑であることにつき訴訟当事者間において争がなく、且つ、右鑑定以外の他の証拠によつても一応該事実が認められる上に、他にこれに反する証拠の存在しないような場合には、専門家の鑑定のみに依拠することなく、他の証拠によつて右の事実を認めたからといつて、必ずしも証拠によらずして事実を認定した違法があるものということはできないと解すべきところ、本件記録に徴するときは、本件譲り受け物件が覚せい剤取締法所定の覚せい剤であることについては、原審において、検察官はもとより、被告人及び弁護人においてもこれを争わないところであつて、且つ、原判決の挙示する証拠だけによつても、一応右物件が覚せい剤取締法第二条所定の覚せい剤であることが認められる上に、該物件が右覚せい剤でなかつたとの証拠は全然これを発見することができないのであるから、原判決が所論のような専門家の鑑定によることなく、前示の証拠のみによつて、その判示事実を認定したことは適法であつて、原判決には、所論のような証拠に基ずかずして事実を認定した違法があるものということはできない。論旨は理由がない。